2011 MSR Asia Fellowship Winnerのご紹介(その1)

先日、2012年度のMSR Asia Fellowshipの案内をいたしましたが、今日は昨年度の受賞者のご紹介をいたします。昨年は日本からは2名の受賞者がいらっしゃいましたが、そのうちの一名、東京大学の梅谷信行さんをご紹介いたします。

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・所属

東京大学大学院の情報理工学研究科,五十嵐研究室に在籍しています.現在,博士三年生でこの秋には卒業する予定です.

 

・現在行っている研究の内容

博士課程では物理的な制約を考慮した設計のためのインターフェースについて研究しています.物理的な制約とは,例えば家具を設計する時に,家具が倒れないとか,重みで壊れないとかそういった,物理現象が絡んでくるような条件です.物理現象は,幾何的な形状だけを見て直感的に結果が分からないので,それを再現するためには,計算機を使った物理シミュレーションを行う必要があります.たとえ物理シミュレーションを使っても,上手く設計するためには工学的な専門知識が必要でした.僕の研究は,もっとソフトウェアを賢くすることによって,工学の知識を持たない一般人でも簡単に物を作れるようにするのが目標です.高速なパソコンやインターネットが一般の家庭に普及していますし,3Dプリンタのような製作装置が家庭に置けるほど小さく安くなっているので,それらを活用した,工学的な知識を持っていない一般人向けの設計インターフェースの研究というのは,今後,必要となってくるでしょう.

 

・Fellowshipをしったきっかけ

専攻のメーリングリストで知りました.MSRAにはずっとインターンシップとして参加したいという意思があったのですが,具体的にどうすれば参加できるのかは知りませんでした.特にMSRAのCGグループには日本人の研究者の方がいないので,過去にインターンに行った人もあまりおらず,CG業界の中ではあんまりMSRAでのインターンシップや,フェローシップに関する情報がないのが現状です.そんな中で,専攻のメーリングリストからフェローシップの案内が来たので,そんなチャンスがある事を初めて知り,学内選考〆切3日前だったのですが,急いで書類と英語の研究紹介ビデオを作って応募してみました.

 

・応募書類の準備、電話インタビューの雰囲気

MSRAとの電話面接をやっていた当時は,共同研究のためにサウジアラビアのKAUSTにいました.Lyncという会議ソフトウェアを使って, 遠隔自分の研究内容について説明して良い議論をすることが求められます.プレゼンに必要とされるLyncのPowerPointのプレゼン連携機能が使うためには,WindowsとOfficeが必要でした.Macからは,使えないことがサウジアラビアに行ってから気づき大変な目に合いました.サウジアラビアという,砂漠が広がる国で,WindowsとOfficeを探したのですが,ちょうどイスラム圏ではラマダンの季節のためにどこも電気屋さんが閉まっており,なかなか手に入らず,奔走しました.MSRAの研究員の方2人を相手に,2人の研究員の人に英語でLyncでチャットしました.LyncのPowerPoint連携機能では動画が使えないということで,動画を別途ファイルで送信したりとか,サウジアラビアの回線が悪く接続が途中で切れたりするトラブルがあったのですが,研究員の方が,自分が書いた論文を読んでくれて,興味をもって下さり,研究のかなり細かい所まで議論できたので,気に入ってもらい,採択してもらえることになりました.

 

・奨学金の使い道は

欧州のとある研究所の研究員に共同研究を誘われているので,頂いた資金は,欧州に行って直接,議論して来るのに使おうと思います.欧米ではPh.Dを取る前後に,今後共同研究などで交流のある研究所を訪問するのは普通なのですが,学振ではこうした,学会に参加する目的以外でお金を使うことが難しく,フェローシップのような,ある程度,自由に使える研究資金があるのは非常に助かります.

 

・MSRに興味を持ったきっかけ

修士2年生のころは,全く情報系ではない学科で,医工連携をやっている研究室で,生体シミュレーションについて研究したのですが,そのころ,偶然,本屋さんで「ビル・ゲイツ、北京に立つ」という本を買って読みました.その内容が,非常に衝撃的で,MSRAに特別な興味を持ったのはそれからです.既に,アジア圏でのコンピュータ科学の研究の中心は,日本ではなく中国にあること,中国の大学生の熱心さやポテンシャルどれをとっても,日本とは比べ物にならないと思いました.この本が書かれたのは5年前の事なので,今ではよりさらにMSRAや中国の研究事情は向上しています.僕の研究しているCG系の分野では,毎年,中国の大学とMSRAを合わせると日本のからの研究の数倍の量の成果が出ています.中国の大学出身で欧米の大学でPh.Dを目指しているような大学生を含めると,大部分の研究が中国と何らかの関係をもっています.中国に行くことで,人脈を作っておくことは今後の為に非常に重要だと思います.

 

– MSRのいただけないところ

MSRAは非常に優秀なコンピュータグラフィックスの研究グループを持っているのですが,コンピュータグラフィックスの中でも,レンダリングの研究をしている人が多く,自分が専門の物理シミューレションの部分は特にMSRAには詳しい人がいませんでした.その分,逆に言うと,他のプロジェクトで物理や工学の知識が必要になると,いつでも議論に参加してもらえるように頼まれたので,どうやったら上手く違うバックグラウンドの人と共同研究できるか,勉強になりました.

 

-MSRに来てよかったこと

やはり,自分としては研究する場所を選ぶ時には,誰と研究できるかというのが一番重要だと思います.僕は物理シミュレーションを専門に研究していて,研究者の方々とは分野違うのに,ちゃんと研究の議論ができ,優秀な研究者に巡り会えたと思います.特にグラフィックスグループのリーダーである,Xin Tongと一緒に共同研究できたのは幸運でした.彼はレンダリングが専門なのですが,自分のシミュレーション分野のプロジェクトに関しても重要な指摘やアドバイスを沢山もらいました.その他にも,中国随一の優秀な学部生が,一人研究を手伝ってくれたのが良かったです.彼はICPC(ACM主催の国際プログラミングコンテスト)で世界大会に出場した実績のある優秀な学生で全面的に時間を割いて,自分のプロジェクトに加わってくれて,共同して研究を進めました.それまでは,コーディングは自分だけでする物だったのですが,誰かと共同してコーディングをするというのは,初めてだったのでとても良い経験になりました.また,同年代の中国人の同じグループの同僚が10人ほどいるのですが,

彼らもかなり優秀で,トップの学会に幾つか論文が採択された人も多く,お互い情報交換ができましたし,良い刺激になりました.また,MSRAは欧米の研究所からも訪問者も多く,日本と比べて国際的な交流が多く良かったです.人だけでなく,設備としても,MSRAの近くにある宿舎に住めたり,計算機環境が充実してたり,MSRAではほぼ研究だけに集中できる最高の環境です.

 

・北京での生活について

今までに住んだどの都市の中でも北京の生活は一番楽しかったです.僕の研究以外の興味は,特に歴史と語学にあるのですが,北京ではどちらも非常に充実していました.歴史では,北京には紫禁城や万里の長城,頤和園や城門などの王朝時代の建物がまだ沢山残っていますし,北京の人々や街並み,食べ物はどれも欧米とは異なっていて,何をするにしても,数千年続いた文化の深みを感じさせられて興味深いことだらけでした.中国語を話せるようになるのが,高校時代からの夢だったのですが,MSRAの近くには,五道口という語学学校が密集している場所があり,そこで,安くて質の高い中国語の個人レッスンを受けられたので,かなり中国語が上達しました.中国人の同僚達とは,研究以外の,プライベートでも凄く親切に接してくれて観光案内などしてくれたり,近くの大学を案内してくれたり,美味しいレストランを紹介してくれたり,中国語を教えてくれたりしました.中華料理が安くて美味しいですね.中国には三十数個の省があるのですが,どれも,それぞれ料理が違っていて,毎日,飽きることなく色々な料理を食べることができます.一人当たり大体80元(1000円)も出せば,お酒も含めて,色々な料理の皿をお腹一杯堪能できます.北京では終電が早く夜10時半ごろには地下鉄が終わってしまうのですが,北京の人々は早く家に帰る人が多く,日本より健康的な感じがしました.日本に帰ってからは一種の心身喪失状態です.北京にわずか3ヶ月の滞在で帰ってしまったことは,とんでもない選択だったのではないかと考えてしまいます.それだけ北京の生活が楽しく,充実していたということです.

 

・中国と留学について

中国の学生の海外志向の強さには,とても驚きました.MSRAには学部生の人が沢山いるのですが,多くの学部生にとって,MSRAのインターンシップは海外留学への通過点で,インターンが終わった後に留学を始める人が多かったです.私がインターンを始めた2月は,ちょうど海外の大学院のPh.Dコースへの応募の合否の結果が告知される時期で,学部のインターンの人は,それぞれ来年からの海外生活にに夢を膨らませていました.留学する大学生達は,インターンシップをすることで,MSRから推薦書をもらいます.推薦書が,海外の大学院への入試にとって非常に重要なので,良い推薦書をもらうために,学部生は死に物狂いで勉強して,研究します.MSRA出身者というのは,海外のコンピュータ系の中国人院生の中では,一種のコミュニティで,インターンを通じて色々な人と知り合いになり,留学中の人脈づくりに役立てられていきます.その意味では,MSRAは研究施設としてだけでなく,人材育成,人脈形成において大きな意味を持っています.日本では海外大学院留学が一般的ではないですし,日本の企業でインターンする人の中に,留学する学生のコミュニティがあるわけではないので,日本にMSRAのような研究所が無いのは,とても残念だと思いました.MSRAは,新東方などの欧米留学生向けの巨大な塾の隣に位置しており,北京大学,清華大学が近いので,街の至る所で,欧米への留学を斡旋する看板を見かけます.多くの留学生はMITやStanfordやアイビーリーグなど米国のトップの大学院を狙います.日本の大学院を目指す人はかなり稀で,人気が全くなくて,実際の日本の大学はよく知られていません.(早稲田大学の方が,東京大学よりも日本でレベルの高い大学だと思っている学生はかなりいます)日本の大学に非常に大きな危機感を抱きました.

 

・インターンに行こうか迷っている人に対して一言

日本から来た時に心配だったのは,中国は治安が悪いのではないか,中国の人々が反日ではないのか,という2つです.治安の問題に関しては,日本の一般的な都市より少し悪いぐらいです.具体的に言えば,大阪の難波周辺ぐらいです.ニューヨークのマンハッタンと比べれば格段に良いと思います.急速に発展する北京では,貧富の格差は非常に大きく,通りを一歩入ればスラム街のような秩序の無い場所もあるのですが,貧しい人々も,とくに社会への不満はなく,それぞれ人生を楽しんでる感じがしました.急速に発展する社会では,未来に豊かになれるという期待があるので,犯罪に走るよりも子供を教育したりすることにエネルギーを費やすほうが,割に合うようになってきているのだと思います.普通に生活していて,特に危険を感じたり,何か盗まれそうになることは無かったです.(もちろん,観光客が沢山いるような場所では,ボラれる危険性はありますが.)反日に関しては,日本に対して悪いイメージを心の中では持ってる人は少なからずいました.テレビの番組でも,沢山あるチャンネルのうちのどれか一つは必ず反日的歴史ドラマをやっていましたし,ある程度は,しょうがないことだと思います.しかしながら,心の中でどう思ってるかに関わらず,中国人は寛容なので日本人に対してはとても親切に接してくれます.日本のアニメや漫画は中国においてとても人気で,日本のサブカルチャーや物質的豊かさに対して興味や憧れを持ってる人は多いです.(最近はK-Popなどの韓国のサブカルチャーが人気ですが,漫画とアニメに関しては日本は非常に強い影響力を持っていました)特に気分の悪くなるような事は今までありませんでしたし,心配はないと思います.英語に関しては,僕は特に問題は無かったのですが,素晴らしい日本人の研究者が数多くMSRAで働かれていますし,英語に不安を感じる人は,日本人の研究者にメンターになってもらえばよいと思います.MSRAはとても素晴らしい研究所です.是非,インターンに参加して素晴らしい経験をされて下さい.

 

梅谷さん、ありがとうございました!

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