MSR Intern Beijing(滞在中)のご紹介(第27回)

Microsoft Research滞在者のご紹介。第27回は、北京のラボに滞在中、筑波大学の吉田光男さんです。吉田さんはceek.jpの開発運営や図書館情報学に関する”Project Lie”の発起人でもある非常にアクティブな方です。MSRでの経験が吉田さんの今後の活動にもうまく結びつくことを期待します。

Yoshida

Photo by Kazuya Okada

 

・所属,学年,研究室

筑波大学大学院 システム情報工学研究科 コンピュータサイエンス専攻 博士後期課程(博士)1年

知能情報・生体工学研究室 自然言語処理グループ(山本研, 自然言語処理 on the Web 研究室)

 

・博士論文のテーマ

ウェブ検索エンジンにおける「キーワード検索」機能をより高度にするための研究を行っています。その第一歩として,入力されたキーワードから場所や時間の情報を推定し,それらの情報と合致するコンテンツを提示するシステムの実現を目指しています。

現在のキーワード検索機能は,あるキーワードが含まれるページを探すことに重点が置かれています。しなしながら,キーワードを入力するという行為は,それ以外にとる術がないからする行為であり,キーワード対キーワード(ページ)のマッチングのみでは不十分であると考えています。皆さんが意識下に行っている「探したいコンテンツに含まれるであろうキーワードを想像してから検索する」という冗長な行為をなくし,より直感的に利用できる検索システムを創りたいのです。

 

・インターンに来たきっかけ,目的

MSRA University Relations(現MSR Connections)の公野さんからMSRAでインターンを募集している旨のご連絡をいただきました。他の海外インターンの選考中だったので迷いましたがアプライを行い,電話面接,コーディングテストを経て7月よりMSRAでの研究活動を開始しました。他の海外インターンは残念ながら選から漏れてしまいましたが,そこで作成した英語のCVがMSRAに滞在するきっかけを作ったのだと思います。

博士論文のテーマを進めることが目的ですが,研究環境及び研究テーマを変更したとき,自分はどのくらいできるのだろうか?を確かめるのも目的の一つです。博士論文のテーマは修士論文と連続していないので,今年は非常に良いタイミングです。また,博士号は(専門)分野の研究をリードできる能力の証であるとともに,どのような分野・環境でも研究を立ち上げることができる能力の証だと考えています。メンターの荒瀬由紀博士はHCIの分野で博士号を取得され,現在はNLPの分野に取り組んでおられます。メンターの背中を追いながら,どのような分野・環境でも研究を立ち上げることができる能力について様々なことを学びたい思っています。

 

・インターンでの研究テーマ,目標としている会議など

MSRAでは2つのテーマに取り組むことにしました。一方は,チェックアウトしたインターン生から引き継いだ「ウェブから自動抽出した対訳コーパスのクリーニング」です。このテーマは,研究というより,研究成果をプロダクトに繋げる為の研究者ができる最終的な作業であり,既存研究の知見,論文にしにくいノウハウなどを用いて,プロダクトで利用できるようなデータの作成を行います。このような作業には単純作業を伴う場合があり,研究者に敬遠されがちですが,プロダクトを基準とした研究需要を見極める,重要なステップであると考えています。

他方は,メンターとともに新たに立ち上げた「ウェブからの同義語抽出」です。このテーマは,自身が博士後期課程のために立てた研究計画の2年目の部分に相当します。当初は,Microsoft特有のデータを用いた研究テーマを模索していましたが,試行錯誤の末,このテーマに落ち着きそうです。

後者のテーマをACLなど自然言語処理におけるトップカンファレンスに通すことが目標です。研究テーマはもちろんのこと,締切りを設定して研究を進めること,英語論文を書く必要があることなども初めての経験で,非常にエキサイティングです。新しいテーマに取り組み,国際会議投稿に漕ぎ着けるスケジュール感は電話面接でも出ており,そのときに提案された通り,滞在期間が6ヶ月間に延長されました(余談ですが,中国人インターン生は6ヶ月~1年が標準のようです)。

 

・MSRと大学の研究室と異なるところ

開発環境及び実験環境がMicrosoft製品でほぼ統一されている点が大きく異なると思います。環境統一には一長一短がありますが,ライブラリ(DLL)やクラスファイルの融通が利きやすいので便利です。もちろん,大学でもそのようなことはできると思いますが,研究室(MSRAで言えばグループ)の壁を越えるのは難しいと思います。

リサーチャーとの距離感も大きく異なります。大半の研究室は教員によって運営されていますが,教員は研究室運営以外の仕事を多数抱えているためアポイントメントを取るのが大変です。つまり,研究の相談をしにくい状況に陥りがちです。一方,MSRAのリサーチャーは研究に注力し,その上,少数のインターン生しか抱えないため,研究の相談をしやすいです。また,関係がフラットになるよう配慮されていると感じます。

物理的な壁がないのも大学の研究室(コンピュータサイエンス)とは異なるところです。MSRAでは,グループごとに座席の島はあるものの,それらを明示的に区切るものは存在しません。そのため,分野や国をまたいだ交流に対する障壁が低くなっています。このようなオープンフロアの問題点の一つは騒音ですが,すべてのインターン生が研究に注力していること,リフレッシュスペースが別に準備されていることにより解決されています。

 

・MSRに来てよかったこと,刺激をうけたこと

MSRAの中国人が日本語を対象とする研究に携わっているのを目の当たりにして衝撃を受けました。日本の日本人が英語を対象とする研究に携わっているケースは多々ありますし,何も不思議なことではないのですが,実際に目の当たりにするとは思いませんでした。十分なリソースが割かれているのも衝撃に拍車をかけました。たかがそんなことで…と言われそうですが,私は,この事実を自分の目で見られただけでも,MSRAに滞在してよかったと感じています。

研究インターンに参加するのは博士課程の学生である,という偏見も覆されました。MSRAのインターン生の数は,学部,修士,博士の学生で概ね三等分されているようであり,それぞれが高いモチベーション及び志を持って参加されています。自分よりも若い学生が素晴らしい業績をあげられているのを見て,年齢は必ずしも研究能力に影響しないことを再確認しました。

日本にいたときは,博士課程の学生と規則正しい生活は相容れないものだと思っていました。さらに,博士課程と苦労は同義語であるようなイメージもありました。MSRAでは,博士課程の学生を含む大半のインターン生は規則正しい生活を送っており,その生活の中で輝かしい成果を上げられています。また,どのインターン生も楽しそうに研究に携わっています。このような姿勢から得るものは大きいです。

 

・MSRのここはちょっといただけないというところ

MSRAのリサーチャーとインターン生は英語が話せるのですが,そのほかのスタッフ(警備,清掃など)は中国語しか話せないため,困ることがしばしばありました(通せんぼされている理由がわからない,文房具が貰えない)。もちろん,近くに中国人インターン生(またはリサーチャー)がいれば助けて貰えます。

研究資源及び成果の管理に関しては改善の余地があると思います。もっとうまく管理されれば,人探しやコミュニケーションがより円滑に進みそうだと感じています。この点は,良くも悪くも日本の大学の現状と同じであると思います。

 

・北京での生活について

北京(海淀区)は非常に過ごしやすい街で,住民の方も親切です。現地の携帯電話を購入した際,店員は中国語しか話せなかったのですが,通りかかった方が通訳してくれました。残念ながら,街中では英語がほぼ通じないのですが,身振り手振りなどを通じて,概ねコミュニケーションできています。

喘息の持病があるため,北京の空気の悪さを懸念していたのですが,今まで発作は一度も出ていません。初めのうちは,@BeijingAir (http://twitter.com/BeijingAir)の値で一喜一憂していたのですが,今では,気にしなくなりました(人間の環境適応能力は凄い)。空気の悪さよりも,排水設備,汚水処理が未熟で,悪臭のする場所がチラホラある方が気になっています。

北京での食事は,安くて美味しいので大満足です。オフィスの近くに「金渝川菜」という四川料理屋があり,毎週のように行ってます。また,好麦道(HottoMotto)では,日本の弁当の味が,中国価格で食べられるので重宝しています。地下鉄は2元均一,バスは0.4元~1元,タクシーは初乗り10元(3km)と交通機関も安いです。自転車を300元ほどで購入しましたが,油を差さずに乗っていたら,2ヶ月でチェーンが切れてしまいました…。ううう。

 

・インターンに行こうか迷っている人に対して一言

海外インターンに行こうか迷う大きな要因は「英語」なのではないでしょうか。私の場合,メンターは日本人ですから,研究を進めるに当たり,英語を必要とする場面はそんなに多くありません。もちろん,英語をペラペラ話し,日本人以外のリサーチャーやインターン生と円滑にディスカッションできれば,より幅広い知見が得られるでしょうし,そのようになりたいですが,まずは,環境をリセットしても高いパフォーマンスで研究できる能力を身に着けたいと思っています。

日本学術振興会特別研究員(DC1, DC2)の場合,インターン実施に制約が設けられています。しかし,目的,条件,実施内容によっては,通常の研究遂行と認められる場合があります。遵守事項が壁になっていると感じる場合は,日本学術振興会及び大学の担当者に相談することをお勧めします。

メンターがインターン生に望む能力は様々です。何が望まれ,マッチングするかはアプライしてみないとわかりません。何かに自信がなくても(私の場合は英語が…),それが選考に大きく影響しない場合も多いでしょう。欠点を理由にあきらめず,長所をアピールしてチャンレンジしてみてください。

 

・その他なんでも

MSRAに行く前,指導教員の山本幹雄先生から「大学(研究室)の仕事(雑用)を持っていくくらいなら,インターンに行かない方がいい。」というアドバイスを頂き,実際にその通りだと感じています。研究インターンは研究に専念できる環境が準備されますから,それを妨げるものを持参するともったいないですね。

今回の滞在は,所属する研究室以外で研究する初めての経験であり,海外に長期滞在する初めての経験でもあります。新しい発見がたくさんあり,今までの環境を見つめなおす時間にもなっています。様々な知見を得て,日本に帰りたいと思います。

吉田さん、ありがとうございました。

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